フィンランドで30日間の家族ノマド(家族でのワーケーション)の後は、エストニアに渡り10日間の家族ノマドをしてきました。
皆さんはエストニアという国をご存知でしょうか?
恥ずかしながら、私は今回、滞在するまで名前は聞いたことがあるものの、どこにあるかも知らず、また、どのような特徴がある国かも知りませんでした。
エストニアってどんな国?
バルト三国の一国であり、フィンランド湾をはさみフィンランドの約90km南に位置し、東はロシアと接しています。
滞在したフィンランドの首都ヘルシンキからフェリーが出ており、約2時間で訪れることが可能です。
人口は約130万人と沖縄県や青森県と同規模、面積は約45,000キロ平方メートルと九州よりも少し大きな程度です。
公用語はエストニア語ですが、「英語能力指数(EF EPI)」は世界第7位(2015年度)とまったく問題なく英語が通じます。
教育も熱心であり、小学1年からプログラミングを学ぶなど早期のIT教育や国際学力調査でヨーロッパの上位国としても知られています。
通貨はEUに属しており、ユーロです。
物価はフィンランドに比べると安く、これだけスーパーで買い物をして19ユーロぐらいです。
肉や魚はさほど安くはありませんでしたが、野菜の安さが際立っていました。
※エストニアのスーパーの商品の値段を紹介している記事がありました。
平均月収はインターネットで調べると、800〜1,000ユーロぐらいという数字が多くみられました。
首都はタリンで、旧市街地は中世のヨーロッパの街並みが残り、世界遺産に登録されています。
この風景をエストニアのイメージとしてお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もちろんタリン全体がこのような風景ではなく、旧市街地を一歩でると大規模なショッピングモールが見られる普通の都市です。
そして、美女が多いです。
「美しい人が多いなぁ」と感じていたのですが、ググッてみるとやはり皆さん周知のことだったんですね。
こちらの方は旧市街地のカフェの店員さんなのですが、あまりに美しすぎて思わず写真を撮らせてもらいました。
ほんと何度見ても美しい!
また、驚いたことに国自体は1991年にソ連から独立と、独立してからまだ25年しかたっていません。(13世紀以降、デンマーク、スウェーデン、ロシア帝国等に支配を受け、1918年にロシア帝国から独立するも1940年にソ連に占領されています)
電子政府 e-Estonia
このような国であるエストニアですが、私が一番興味を抱いたのが電子政府化(e-Estonia)を進めている点です。
滞在する前にインターネット等で調べてはいたのですが、実際、現地の方にお話を聞いたり、説明を受けることができる施設を訪れて、その内容と進み度合いに感嘆しました。
エストニアには官民あわせて2,500以上の電子サービスがあり、国民のための電子サービスは500以上あるそうです。
エストニアの電子政府の取り組みを紹介しているe-estonia.comでは、ピックアップして下記のようなサービスが紹介されています。
今回はその中でも私が特に気になったサービスを紹介したいと思います。
【Electronic ID Card】
電子政府体制は2000年から始まりました。
2002年にIDカードが配布されることになるのですが、このID制度が電子政府の中心を担っているとお話をお聞きして感じました。
このカード1枚で身分証明証、健康保険証、運転免許証、公共交通機関のチケットとしての役割を果たすほか、銀行口座へのログイン時の識別、納税、医療記録確認、選挙投票、法人登記など、IDによる電子署名によって様々な電子サービスを使用することができます。
(2007年にはIDカードを使わず、携帯端末で電子署名ができるモバイルIDが始まりました。)
【X-Road】
X-Roadはe-Estoniaのバックボーンです。
政府、病院、警察、学校などあらゆる場所で電子サービスが受けられるわけですが、情報が一極集中しないようにデータベースはそれぞれ分散化されています。
それらのデータベースを横断的に接続できるシステムがX-Roadです。
X-Roadがあることで、異なる機関の間で安全なデータ交換ができ、幅広い電子サービスを迅速に便利に受けることができるのです。
こちらの動画を見るとイメージがわきやすいと思います。
【Digital Signature】
エストニアでは、2000年に議会で、電子署名に従来の紙への署名と同じ法的効力を与える法律が可決されました。
この電子署名はe-taxやインターネット投票など様々な電子サービスで使用されており、電子署名が認められたからこそ、e-Estoniaが実現していると言っても過言ではないのではないでしょうか。
手書きによる署名の場合、偽造問題が裁判で争われることが度々あるそうですが、電子署名の場合はほぼ起こらないとのことでした。
【e-Cabinet】
内閣が閣議を開く際に、閣僚はシステムにアクセスし、議題を確認するだけでなく、意義があるか、また、発言を求めるかなどを知らせます。
そして、異議がないものは閣議の場で議論することなく採択されるのだそうです。
こうした取り組みによって、4〜5時間かかっていた閣議が30分〜90分で終わるようになったということです。
また、毎週数千ページ印刷していたものも不要になったということです。
【e-Tax】
エストニアの税務申告の約95パーセントがe-Taxで提出されています。
納税者はログシステムに記録された自分のデータを見直し、必要な変更を行い、電子署名で承認します。そのプロセスは、3〜5分しかかかりません。
というのもIDにより、給料等収入を行政が把握しているため、あらかじめ計算されているのです。
2015年からは、確認ボタンを1クリックするだ済むようにもなったとのことです。
こういう記事も見つけました。
【i-voting】
2005年よりインターネット投票が始まっています。
指定された投票期間中に、有権者はIDカード、または、モバイルIDを使用して、システムにログインし、投票することができます。
投票期間中は何度でも投票を上書きすることができるため、誰かに強制させられて投票を促されても、その投票を変更することが可能です。
2015年の議会選挙では、インターネット投票は全体の投票の30.5%を占め、海外からも投票が可能なため116カ国から投票が行われたとのことです。
【e-Prescription】
薬剤師は医師が発行した紙の処方箋を見て薬を処方するのではなく、システムから患者の情報を取得し、処方します。
システムは全国すべてのの病院と薬局が接続されています。
また、処方箋をもらうために病院に訪れる必要はなく、患者はメール、スカイプ、電話で医師に連絡をすることができ、医師はクリックひとつで処方箋を出すことができます。
患者の負担はかなり軽減されており、2015年の調査では、この電子処方箋が最も人気のある電子サービスに選ばれたとのことです。
【Electronic Health Record】
電子カルテ制度です。
過去の病歴などを記した電子カルテが、異なる医療機関で受信したものも含めてシステムに記録されています。
医師は通常は本人の拒否がなければ、これを見ることができますが、緊急時には本人の承諾なく、血液型、アレルギーの有無、最近の治療について、服薬中の薬などの情報をすぐに取得し、治療にあたることが可能です。
通常の診断時でも、過去の履歴を見てもらえば、より正確な診断をしてもらうことができ、不必要な検査を受けることも避けることができるのです。
【e-Business Register】
法人登記がインターネット上で簡単にできます。
e-Estoniaのホームページには次のステップで完了すると書かれています。
ステップ2:必要な情報を記入
ステップ3:創業者が電子文書に署名
ステップ4:手数料と株式資本は、インターネットで送金
ステップ5:ワンクリックで申請完了
一番早い記録で18分で登記が完了したという例があるそうです。
実際、現地でお話を聞かせてもらった方も法人登記をしたのですが、いとも簡単にできてしまったとおっしゃっていました。
ちなみにエストニアは法人税、所得税は一律で20%、エストニアに再投資する利益は法人税が0%となります。
【e-Residencyとは】
場所に依存しないオンラインでビジネスを管理することに興味を持った人たちに、エストニア人と同様にオンライン上で各種サービスを受けることが可能になる、IDカードが発行される制度です。
エストニアの国民を増やすことは難しいですが、e-Residencyであれば、仮想ではありますがエストニア国民の数を増やすことができるようになります。それによって、エストニアの経済にプラスになればという考えがあるようです。
電子居住者になれば、電子認証により、エストニアに一度も行くことなく法人登記ができるようになると言います。
そして、銀行口座を開設しオンラインバンクを使用し、契約やエストニア政府に対する報告や書類(税務申告など)を電子署名で交わすことで、場所に依存せずビジネスを行うことが可能になります。
私のように場所を問わず生きていきたいと考えている人間にとってはe-Residencyは興味深い制度です。
日本の電子政府化はどうなる?
いかがでしたでしょうか?
エストニアは人口が少ない小国ではありますが、人々が国内に幅広く点在しています。
国民に平等な行政サービスを提供することが、e-Estoniaを進める大きな理由だったと言います。
そして、独立後、人口が少ない中、単純な労働力で経済を回復させることは難しいため、ITを活用した頭脳的な産業を育成することを定めたそうです。(Skypeが生まれたのもエストニア)
エストニアではインターネットにアクセスすることは社会的な権利として認められています。
国土の50%は森林にも関わらず、ワイヤレスネットワークがすべての国土に行き渡っています。
国民の88.4%の人が定期的にインターネットを使用し、30Mbps以上のインターネット環境にある人は86.7%に及びます。
そして、国民の多くが紙よりもデジタルの世界を信用していると言います。
また、エストニアは非常に行政の情報公開が進んでおり、不透明なことがあれば、国もマスコミもとことん追求するのだそうです。
そして、e-Estoniaの仕組みは情報は決して一極集中しておらず、基本的に本人が了承したときに取りにいくことができ、たとえ警察がデータを照会していても、その記録はすべて本人が把握できるようになっているとのことです。
ちなみに医師による不正アクセスがあった場合は、一発で免許停止になるそうです。
また、セキュリティ技術も高く、その実績からNATOのサイバーテロ防衛機関はタリンに置かれています。
そのような土壌の中、e-Estoniaは2000年から今日に至るまで、下記のような変遷を経て今日の状況を実現しています。
かたや現在の日本の行政効率化はいかがでしょうか?
大阪の某市役所に勤めていた身としては、市役所の中だけでも、「何でこんなに縦割り行政なの?」と思うことがたくさんありました。
市民の方は住所を移すだけで、住民登録の課から年金・保険の課へ、子どもが入れば子育て支援の課へと足を運ばないといけません。
起業したらしたで、登記は大変だし、税務処理も大変だしetc…
きっと皆さんも「この制度何とかならないの?」と思ったことは一度ではないと思います。
日本もマイナンバー制度が導入され、デジタル社会に向けて動き出しています。
しかし、どちらかと言えば賛成の声よりも、個人情報に対する不安の声が多く聞こえます。
そのひとつの理由として、デジタル化が導入されることでどのような社会になるのか想像できないこともあるのではないでしょうか。
インターネットの台頭で、個人を含め社会はどんどん透明化してきています。
透明化されれば、すぐに人の目にさらされることになり、不正はしにくくなります。
そして、評価されるべき人がきちんと評価されやすくなり、平等な機会も得やすくなるでしょう。
一方で、透明化されて、窮屈な世の中になったなと感じることもあると思います。
しかし、私は透明化の方向に進むべきだと思いますし、時代の流れはそちらに向かい、止めることはできないと考えています。
とは言っても、日本がエストニアと同じような電子政府体制を築けるかと言えば、非常に難しいのではないでしょうか。
エストニアは1991年に独立を果たし、ある意味、白紙の状態から築くことができたのです。そして人口の規模も違います。
すでに様々な制度があり、そして、既得権益もたくさんある日本がどのようなデジタル社会を築いていけるのか現時点では想像することが容易ではありません。
個人的にはまずはインターネット投票、電子カルテ、電子処方箋が早い段階で実現してくれたらいいなと考えています。
皆さんは電子政府化について、どのような考えをお持ちでしょうか?
おまけ:タリンで活躍したアプリ
エストニアの首都タリンのタクシーは結構ややこしくて、タクシーによって料金が異なります。
初乗り運賃も違いますし、1km辺りの金額も異なります。
ですので、高い金額のタクシーに知らずに乗ってしまうとずいぶんと高い金額になってしまいます。
その辺りのことは下記のブログ記事に詳しく書かれています。
こうしたことも「Taxify」というアプリを使うことで回避できます。
動画を見てもらったら分かるように結構な数のタクシーが走っています。
そして、ちゃんと初乗り運賃と1km辺りの金額もタクシーごとに表示されています。
運転手はレビューされるので、遠回りなどをされることもなく安心です。
そして決済はカード決済で、レシートはメールで来ます。
仕組みとしては、Uberと同じですが、タクシーごとに金額が異なるタリンのタクシーの仕組みをうまく組み入れたアプリだと思います。
初乗り運賃1.9€、1km辺り0.4€のタクシーを選べば10km乗っても6€程度。
これだけ安くて安心して乗ることができれば、タリンでのタクシー移動はむちゃくちゃ快適です。
※タリン滞在最終日に「Taxify」にテスラのマークのタクシーが見つかったので呼んでみたら、本当にテスラがやってきました!
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